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空間をデザインする  〜建築の言葉と文法〜2.光井純客員教授×西村伸也教授
建築を組み立てる「発想の芽」
西村  はじめに光井先生の代表的なプロジェクトについて説明してください。
光井  まず、一番初めに仕上げた仕事が、NTT東日本本社ビル。それから福岡のシーホークホテルが最初になります。最近ですと、羽田空港第二旅客ターミナルビル(以下、羽田第二ターミナル)。それから、日本橋に、マンダリンオリエンタルホテルの入っている「日本橋三井タワー」という超高層のタワーを共同完成させました。羽田空港はクライアントが非常にデザインに興味があったということがあります。通常だと基本機能を満たせばオッケーですよというケースが多いのですが、海外のいろいろなターミナルビルを見ると、国の顔としてのイメージが非常に大事だと。それで、デザインについても、普通にターミナルビルで四角い箱をつくるのではなくて、空間的にも魅力があるものにしたい。そういうデザインの力によって、お客さんの購買意欲につながるとか、使いやすいとか、この空港は来て気持ちがいいとか、実際に使われる方の価値に結びつくようにしないといけない。そういったことを考えながら設計をしたのが羽田第二ターミナルです。羽田第二ターミナルはやはりクライアントの思っているいいデザインをちゃんとつくりたいという気持ちを、建築家がデザインパートナーとしてしっかり応えてあげて、結果的に非常に喜んでいただけた。TVコマーシャルでも時々使われているようですが、ああいうふうに、建物の空間のイメージが、そこを使う企業や組織のイメージと重なってくるとなかなか面白いんですが、結果的にそういった効果をもたらしたんじゃないかというところはありますね。
西村  経営戦略としても空間のデザインを大事にしたいというクライアントからの要請を建築家が受けるわけですね。そのとき、大きな空間の組み立て方として、いくつか自分の頭の中にアイデアが浮かぶと思うのですが、その最初の根源的な発想の芽のようなところを少し話してもらえますか。
光井  私が設計するとき、まずいつも気をつけているのは、過去に見たいろいろな空間のイメージに引っ張られないようにしなければいけないということ。それから、クライアントと徹底的に話をして、羽田第二ターミナルでいえば、クライアントが空港をどういうふうにとらえているか、それから、ほかの国の空港をどうとらえているかとか、そういったことから、今回必要とされている空港ターミナルの空間というのはどんなものかという、そういうソフトなところからだんだん絞り込んでいくように注意をしています。その建物が、その街の中で持っている位置づけとか、歴史の中で持っている位置づけとか、そういったものから、言葉で表したり、簡単な模型をつくったり、できるだけイメージを絞り込んでいく。そして、最後に自分で追い詰めていったコンセプトから形を発想するようにいつも心掛けています。
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空間の原則を見つけるための手法
西村  今回の羽田第二ターミナルの場合、かたちはどこから生まれたんですか。
光井  空港って非常に長細いじゃないですか。それで均質に見えるんですね。だから同じユニットを繰り返してつくり上げていくという発想をしやすい。そうすると、空間が均質になってしまって、自分が立ったときにどこにいるかわからなくなる。それはやはり問題だということで、ターミナル全体の中心になる部分と、一番端のホテルの部分との空間のクオリティーが変わるべきじゃないかなと考えました。今回は屋根の形をローテーションをかけて少しねじれた形にしているんですが、空間の形状が少しずつ変われば、自分がどこにいるかわかる。最初のスタディーの段階から、真ん中と端という空間の図式は常にあったと思っています。
西村  そういうコアのコンセプトをつかむ時期というのはどの辺りなんでしょう。
光井  空間はそうあるべきだというのは原理原則論なので、これは一番初めの時期ですね。
西村  最初の取り掛かりの根本的なアイデアというのを変えてしまうと、デザインをするときに自分の心棒がなくなるから、そこはこだわるんですよね。新しい心棒を見つけろといっても、そう簡単に見つかるわけじゃない。
光井  だから、それは空間の形というよりは原理原則ですよね。真ん中があって端がある。今までの空港はわかりにくい。だから、わかりやすくて、気持ちのいい空間をつくろうというところは変わらない。
西村  それはとても大事な方法論の一つですね。
光井  大事なことですよね。たぶんこれはデザインの原則なんじゃないかと勝手に思っています。
西村  「かたち」が生まれてくる光井さんの過程というのは、自分の中でも説明するのは難しいのかもしれないけれども、学生はそこを一生懸命つかもうとしています。
光井  直感的に物事を発想するという方向に、学生時代は行くべきじゃないと思っています。実際の現場に出て仕事をするときには、いろいろ人と話をして、中にある本質的なものは何なんだろうかということを、本当にエッセンスだけを抜き出していって、それを絞り込みながら形にしていける能力が、すごく必要なんだと思うんです。学校ではなかなかそれが鍛えられない。現場で人と真剣に話をしないと意味がないですから。その真剣さがぶつかり合って、お互いにいろいろなアイデアを出し合って、これがよさそうだということを見つけ出す仕事を建築家はしているわけです。
機能や場面を空間に表す力
西村  先ほど言われた原則を見つけるということと、いろいろな機能を絞り込んでいく、場面を絞り込んでいくということを、ご自分ではどうされているのでしょうか。
光井  模型などでとにかくいろいろなバリエーションを出していきます。つまり、自分の頭の中にあるいろいろな案を対物化するといいますか、それで、もう一回そういった自分の案に対面をして、自分は何を考えているんだろうかということを客観化して見ることが非常に大事だなと思っています。
それからもう一つは、例えばハイエラキーのある空間をつくりたいというコンセプトにたどり着いたとするでしょう。そのたどり着いたコンセプトから、それがどんな空間の形なのかというところにジャンプできるかどうかが非常に大きいですね。それは訓練するしかない。そのジャンプができるかどうかというのが建築家にとって非常に大事なので、そのジャンプの仕方を私としては意図的にすごく自分自身に課してトレーニングをしてきたと思います。こういった形が可能ですという言葉のコンセプトを、何種類もすぐにかたちとして出せる力が一番大事なんでしょうね。
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学生とのトークディスカッション
棒田
(修士1年生)
 最近の傾向として、はやりの建築家をまねてデザインする学生がいます。学生時代には実践から学ぶことができないということですが、では、どういうところで補完するべきでしょうか。
光井  まず、手法をまねるということですが、それぞれの設計者がその形に到達した背景には、いろいろなプロセスがあって、それを理解できているかどうかということがかなり大事じゃないかと思うんですね。学生時代には自分自身を見つけるということも非常に大事で、気に入ったデザインを見つけたときに、それをどういうふうに自分のものにしていくかというところでかなり苦労をしないと、頭が鍛えられないと思うんです。実際に仕事を始めてクライアントといろいろ話をするときに、クライアントが何を考えているんだろうかとか、背後にこういうことを言っているんだろうとか、分析して話をするわけです。そのときに頭で考えているということが非常に大事なので、その部分を訓練しないと、学生時代の時間の使い方としては非常にもったいないと思うんですね。ですから、手法をまねるというのは、学生自身にとっては実は非常に不幸なことなのです。
 それから学生は、自分の経験は非常に限られているということを認めることから始まると思うんですね。もちろん銀座のクラブで遊んだ経験もないだろうし、結婚をしたこともないだろうし、いろいろなことが限られているわけです。自分の親や兄弟、女性、おばさんなどがどんなふうに考えるかということが、すべて建築につながっていく。外国人がどんなことを考えるかとか、目の不自由な方がどんなことを考えるかということは、かなり経験を積むと同時に、そういった方々がどういうふうに考えるんだろうかというシミュレーションを頭の中ですることができないといけない。イマジネーションというのは、新しいことを発想するという意味じゃなくて、相手の気持ちになって、自分が相手の考えていることをシミュレーションできるかどうかということなんですね。
田中
(学部3年生)
 光井さんが日本で学生時代において築き上げた軸というのは、アメリカに行って、今実際に仕事をしていて何か変わりましたか。また、その軸はしっかりと築き上げられたものなんでしょうか。
光井  揺るがない軸みたいなものはたぶんできないと思うんですね。少なくとも、もしかしたら自分は間違っているかもしれないとか、世の中にいろいろな視点があるんだろうなとか、いろいろなことを考える人がいるということを理解できれば、あるいは、そういう気持ちになるところまでいけば、たぶんかなり軸が持てたことになるんじゃないかと思います。それを自分の中で確信できて、そういったことを大事にしなければいけないと思ったのは、日本で学生を経験して、それからアメリカで学生を経験したそのときでしょうね、きっと。そのときに両方が見えて、「ああ、いろんなことがあるんだな」ということがわかったということだと思います。だから、それはたぶん永遠に、今も延々と続いています。
西村  3年生の終わりとか、4年生の初めに、その人の力が急に出てきたり、ややもすると、大学を卒業して、その人が建築を続けていると、すごくいいものをつくり出したりということがよくあります。だから、学生時代に力が及んでいないということで、自分の人生を早計に決めることはないなと今は思うのですが、学生の時代はなかなかそれは難しい。自分が一番やりたいところを目指し続けるというのが正解だろうとは思っていますが、どうお考えですか。
光井  私もそう思います。たぶん、あることに対して非常に興味を持てることってあると思うんです。自分がすごく興味を持てそうだなと思うことというのは、長続きすると思うんですよね。それは結構グッドサインで、「これ、俺結構長く続けられるな」と思うものが見つかると、どこまでもいく可能性はあると思います。だから、同時に、「あ、これ、オレ気に入ってるな」と思うことは、もしかすると、直感的に、自分の中にそういう能力をある程度持っているということかなあと思います。建物というのは、それぞれの場面で生まれてくる生活のシーンがどこまで頭の中に思い浮かべて、人間のための建物をつくれるかどうかというところが勝負だと思うんです。やはり人間の生活に興味がない人は、建築家になるべきではないんじゃないかと思います。
湯浅
(学部3年生)
 客観的に見て、これは絶対無理があるんじゃないかとか、よくないんじゃないかと思われるようなものを、クライアントがいいと思っていた場合、どのようにして設計を進めていくのでしょうか。
光井  建築をつくる人というのは、ある程度社会的に成功した人なんですね。お金がないとできません。ということは、自分のお金を社会の価値、あるいは社会還元として使う義務があるということを、ある程度分かっている人たちだと思っています。クライアントが「俺は素っ裸で街を歩きたい」と言ったときに、それは困るわけですよね。それはなぜかというと、あなただけが生きているわけじゃなくて、みんなが生きていて、そういうことをされると迷惑するわけです。建物も同じで、やはり社会性がそこにはあるのです。
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学生へのメッセージ
西村  今、新潟大学工学部では技術開発を通してものをつくりデザインしていた教育を、より具体的に学校の中に引き込んでいこうとしています。学生たちに向けて、何か考えていることを一言お願いします。
光井  建築もものづくりの一つなんですが、自分が考えたこと、デザインしたりしたことが形にできる。それは非常にうれしく、大きな達成感があります。もちろん、見えてくるものになってしまうということは、逆にいえば、非常に怖いところもあって、できてしまうと消せないんですね。消しゴムのように消せない。50年も100年もずっとそのまま残り続けるわけです。しかも建物は、地震のときに倒れたり、雪でつぶれたりすれば、人の命を奪ってしまうので、そういった意味では、人の命と健康を守る、非常に大事な役割を持つものなんですね。そういう大きな責任を背負っている仕事なんだということに対して、誇りと責任を感じてほしい。それが積み重なっていくと、いい街ができてくるだろうと思っていますので、そこは本当に大事にしてほしいと思います。
光井 純
建築家。東京大学工学部建築学科卒業後、岡田新一設計事務所を経てイェール大学建築学部大学院修了。1995年、光井純&アソシエーツ建築設計事務所を設立し、現在はペリ クラーク ペリ アーキテクツ ジャパンの代表取締役と兼務している。代表作品は国立国際美術館やNTT新宿本社ビルなど数多く、グッドデザイン賞など受賞履歴多数。自信を持って次の世代に受け継ぐことのできる「街」づくりを目指している。
西村伸也
東京大学工学部卒業、同大学院博士課程修了後、新潟大学工学部に勤務。現在、同学部教授。新潟大学科学技術交流悠久会館、新潟大学工学部改修、聖籠中学校等、多数の学校の計画・設計を行っている。また、地域の人たちと学生とが協働しながら雁木のある街並みを手づくりでつくっていく長岡市栃尾の活動に力を注いでいる。
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